お父さん、あなたは愛されていたんだよ。」

私には101歳のおばあちゃんがいる。

おばあちゃんは地元の老人ホームで暮らしている。

 

去年までは叔父夫婦の所で面倒を見てもらっていたけれど、色々あって今年の5月から老人ホームに入っていたらしい。

 

らしいと書いたのは5年位前から今年の7月まで私は事情があっておばあちゃんに会っていなかったので叔父の所で何事もなく暮らしていると思っていた。

 

私の父が生前、叔父夫婦とゴタゴタを起こしたので疎遠になり、私と弟は祖母に会いに行く事はなくなっていた。

 

父は昔は組長代行として組を長い間任せられていたけど、ある事がきっかけでヤクザの世界から足を洗って放浪生活をしていた。

 

しばらくは全国を内縁の妻と放浪しながら普通に何事もなく暮らしていた父だったが、晩年は心を病んでしまった。

 

そして心を病んだ父は一番仲の良かった私に暴力的な言葉や脅し文句で嫌がらせやを繰り返すようになった。

 

そして、その父の狂った行為はどんどんエスカレートして父の兄弟、従兄弟、親戚にまで及び親戚中の嫌われ者になってしまった。

 

ヤクザ時代の父は、「ヤクザなんて言うのは普通の事ができない馬鹿な人間の集まりなんだから堅気の人達に迷惑をかけないように生きなければいけないな。何処かに飲みに行っても食事に行っても他の人達が嫌がる（怖がる）から、目立つような所に座るな。」と若い衆にいつも言っていた。

 

事務所の玄関の掃除、トイレの掃除も徹底して自分からやっていたし、言葉使い、箸の持ち方、茶碗の持ち方、戸の閉め方、靴の揃え方、色々な礼儀作法まで若い衆に教えていた。

 

弱い者イジメや筋の通らない事が何よりも嫌いだった父が、私を脅かし親戚にも暴力的な行為をする位、頭がおかしくなってしまった事が私は本当に悲しかった。

 

それから父は自暴自棄になって、警察に連行されるような大騒ぎをしたり、色々やらかして私をかなり困らせたが、肝臓ガンの末期だと宣告されてその後2回自殺を図った。

 

ここでは話が長くなるのでその辺りの事は省くけど、その後父との長い長い闘いは終わって父の闘病生活中に私達は昔のような普通の親子に戻り、父は私と弟が見守る中で天国に安らかに旅立って逝った。

 

昔、父と私は本当に仲良しだった。

私がまだ中学生か高校生だった頃、父は私に「俺はお袋の愛情を知らないから、本当に人を愛するって事がよくわからないんだ。

家が貧乏だったから親や兄弟を助ける為に中学を出てすぐに板前の修業に出て俺は働いた。

弟や妹を高校に行かせる為に一生懸命働いた。

小さい頃、俺が何かしてお袋に叱られた時に、和裁鋏を投げつけられて足に刺さって大怪我した事があった。その時に子供心にも（この人は俺を好きじゃないんだ。）そう思ったよ。お袋に優しくされた記憶がほとんどないからな。」

と父が淋しそうに私に話した事が記憶に残っていた。

 

老人ホームにいる祖母と父の話をしていて、父の写真を祖母に見せた時に祖母は父の写真を見るなり

「◯◯◯~~許してくれ。お前がお母ちゃんに会いたがっていたのに、遠くの病院だからそこまで行くのは無理だと思って行ってやれなくて悪かった。

そんなに早く死んでしまうのがわかっていたらどんな事をしてでも会いに行ったのに、すまなかったよ~」と号泣した。

 

「悪かったよ。お母ちゃんが会いに行ってやれなくてごめんな~~」と写真を握りしめて泣き崩れている祖母を見て、私も泣いた。

 

 

（お父さん、あなたはこんなにおばあちゃんに愛されていたんだよ。

良かったね…。良かったね…。）と心から想った。

 

晩年になって（まだおかしくなる少し前に）父は祖母に会いに行っていた。

 

父が「お袋、ここに泊まって一緒に隣に寝てもいいか？」と言った時に祖母は世話になっている叔父夫婦に気を遣って父が泊まるのを断ってしまったらしい。

 

その事も祖母は気にしていて、

「あの時、◯◯◯が一緒に隣に寝てもいいか？」って言ったのに泊めてあげなかった。せっかく遠くから会いに来たのに…。可哀想な事をして悪かったよ〜  ごめんよ~~」

と父の写真に泣きながら謝っている祖母を見て私も涙が止まらなかった。

 

涙と鼻水でグジュグジュになった顔で「もうすぐそっちにお母ちゃんも行くからな。そっちに逝くまでもう少し待っててな。」と写真に挨拶をしている祖母を見て、

「おばあちゃん、お父さんはおばあちゃんが好きだったんだよ。何にも恨んでないよ。お父さんの方が（ちゃんと面倒を見てやれなくてお袋、ごめんな。）って謝っていると思うよ。」と言うと

「そうかな…。そうかな…。そうだといいな。」と小さく呟いた。

 

「お父さん、お父さんはこんなに愛されていたんだよ。

今日のおばあちゃんの言葉、ちゃんと聞こえているよね？

お父さん、あなたは  今も昔も ずっとずっと愛されているんだよ。」

 

私は家に帰って父の写真に何回も何回もそう話しかけていた。

父が嬉しそうに「ありがとう。」と言っている気がした。

 

 

 

祖母の101歳の誕生日に！

 

 

 

 

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